臨床研究の推進

ラドンα線療法開発までの経緯

ラドンα線療法開発までの経緯

東北大学放射線医学総合センターの坂本らが、1980年代から1990年代にかけて、正常なマウスと腫瘍を持つマウスを使って行った広範な前臨床研究の結果を受けて、卵巣がんと大腸がんの進行した(転移した)腫瘍を持つ2人の患者を対象に、最我国で最初の臨床試験が開始されました。

この2人の女性の腫瘍は外科的に切除され、局所的に標準放射線治療(RT)が実施されました。病状が進行したため、1人目と2人目の女性には、それぞれ低線量(0.1Gy)の全身及び半身へのX線照射を繰り返し追加されました。これらの治療により、両患者共病状の進行が抑制され(転移の広がりが抑えられたことから)、数ヶ月に渡って全身状態も改善されました。

種々の臓器に進行した腫瘍を持つ他の多くの患者で同様の結果が得られた後、坂本らのチームは、診断時に既にリンパ節外の部位に腫瘍が浸潤しているという広範な性質を持つ非ホジキンリンパ腫の患者を対象に、より大規模な臨床試験を開始しました。
患者は、低線量のX線による半身又は全身への複数回の照射を受けた後、最大60Gyの総線量で分割局所照射を受け、「多くの場合」化学療法を受けました。このような治療を受けた約200人の患者の5年生存率は84%でした。
この生存率は、局所照射のみの場合の65%、局所照射と化学療法併用の場合の70%と比較して、良好な結果でした。さらに、局所照射とCTのみの治療を受けた患者は50%に止まったに対して、9年経過後も84%の患者が生存しました(Sakamoto et al, 1997; Sakamoto, 2004)。

日本における全身照射-低線量照射の臨床治験は、東京理科大学の小島らによって行われました。
最初に、手術で切除されたか、手術不可能な骨転移のある末期前立腺がん患者2名を照射しました。
1人目の患者には「坂本法」に基づいて低線量のX線を全身に照射し、2人目の患者には同様の全身照射を行った後、長期にわたる「222Rnシート(線源238U)」治療を行っています。いずれの治療も、2人の患者の顕著に上昇したPSA値が正常化し、特に2人目の患者では複数の骨転移が明らかに消失しました。

他の一連の実験では、乳がん、大腸がん、肺がん、子宮がん、肝細胞がんの患者6人を対象に、特別に設計された「222Rn-ルーム」又は「α-Radiorespiro-Rnシステム」を用いて、数週間の「α線療法」の効果を検証しました。その結果、全ての患者で病状がほぼ退縮し、全身状態と臨床検査値が“効率的に改善”されました。
これらの結果から、222Rnを用いる“α線療法”が提案され、さまざまな種類のがんに対して、一次療法として、あるいは従来の化学療法/局所高線量放射線療法の補助療法としての確認試験が進行中です。