臨床研究の推進

これまでに明らかになっている基礎(動物・細胞)研究結果

これまでに明らかになっている基礎(動物・細胞)研究結果

放射線による生体への影響は、これまで高線量領域における影響を低線量領域に外挿する直接外挿の結果から“放射線は、たとえ微量であっても生体内に害をもたらす”という考え方「しきい値無し直線仮説(LNT仮説)」が放射線防護の観点から我が国をはじめ諸外国で今日に至るまで受け入れられて来ています。
一方で、過去の中国広東省の高自然放射線地域の調査での、「対照地区より発ガン率が低い」、また我が国の三朝ラジウム温泉地区の人に対する疫学的調査では「胃癌や肺癌などある種の癌の発生率が対照地区と比較して有意に低い」する報告が半世紀前より報告されて来ました。その後、研究者の精力的な研究によりこのLNT仮説が否定され、昨今では低線量領域放射線の生体に対するを有益な作用(ホルミシス作用と言う研究者もいる)が認識されています。

低線量の放射線を生体に照射した場合、生体に対する有益な応答反応(防御反応)として種々の応答が容易に予測されます。小島らは、放射線の障害が生体内に生じた活性酸素種(ROS)に起因することから、その防御系である抗酸化系に焦点をあて、低線量放射線による本防御系応答反応の誘導を生体に生まれながらに備わっているグルタチオン(GSH)に着目して十数年に渡り研究し、高線量照射に対する抵抗性の誘導、細胞免疫の活性化、がん抑制因子の誘導、Th1/Th2バランスの正常化、制御性T細胞の誘導等を明らかにしています(図1)。さらに、がん・リウマチ等の難治疾患、中枢神経障害動物モデル等を用いて、低線量の放射線の照射による上記疾患改善作用についても既に報告しています。

図1:低線量放射線のGSH誘導作用と改善が期待される難治性病態

これまで、低線量放射線による生体影響に関する現象の多くは再現性が得られず、かつ科学的根拠に乏しいものとして見なされていました。しかしその後、低線量放射線が生体に及ぼす影響に関する過去の研究例の見直しが行われ、「放射線はたとえ少量であっても生体に害をもたらす」とする従来の定説にとらわれない新たな視点からの研究が活発に行われるようになってきました。
この結果、放射線の高線量域での生体影響からは推定できないような非常に興味有る作用が次々に見い出されていますが、これらの詳細については紙面の都合上、特集、総説などをご参照ください。
今後は、得られた基礎実験結果を基に、臨床応用を目指した臨床での治療試験(治験)での有効性のエビィデンスを得ることが喫緊の課題であり、難病罹患者様及び臨床医の先生方に積極的な参加をお願いしたいと思います。