臨床研究の推進
ラドンα線の標準治療法との組合せ療法への期待
ラドンα線の標準治療法との組合せ療法への期待
先に臨床治験でのがん、リウマチ等の免疫疾患に対するラドンα線療法の改善を紹介してきました。
そこで、ラドンα線療法の今後適用対象となりうる疾患及び本法の新規使用法を、ここ数年の国内外の研究論文報告から探ってみました。
1.中枢神経障害へのラドンα線療法のチャレンジ
脳は他の組織と異なり多価不飽和脂肪酸に富んでおり、活性酸素種(ROS)の攻撃を受け易い組織の一つです。パーキンソン氏病(PD)、アルツハイマー病 (AD)、アスペルガー症候群、更には筋萎縮性側索硬化症(ALS)等、多くの脳疾患の成因やその伸展にもROSが関与していると報告されています。
低線量放射線による体内組織内のグルタチオン(GSH)をはじめとする抗酸化物/抗酸化酵素の誘導、免疫細胞の制御等が明らかになっています。
宮地らは、中枢神経系異常ラットモデルによる異常な攻撃性や性行動に対する低線量X線(50〜150mGy)の抑制効果を報告しています。また、大谷らはマウス色素性網膜炎モデルを用いて、低線量γ線(線量率26mGy/min, 総線量650mGy)の照射による顕著な神経保護作用が報告されています。さらにごく最近、カナダのCuttlerらは低線量のX-CT照射によるAD病態の改善の臨床治験報告しています。
統合失調症についても、「脳内の抗酸化物GSHが低下すると重症度が増加する」という報告が最近国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構のホームページ・トピックス欄に掲載されています。従って、低線量α線によっても上記脳疾患に対する抑制/改善効果が多いに期待されます。
2.化学療法・放射線療法に伴う副作用(心・腎障害)のラドンα線療法の組合わせによる改善の可能性
既に紹介した様に、ラドンα線療法を適用した患者に陳旧心筋梗塞・糖尿病を有した類天疱瘡の治験者がいたが、ラドン処理5ヶ月後には類天疱瘡をはじめ、他の病態も改善されました。
類天疱瘡と糖尿病の改善は両疾患はいずれも免疫疾患でることから、各種病態の発症に深く関与する免疫(Th1/Th2)バランスが低線量放射線照射(刺激)により健康状態に改善されたことによると思われます。
また、中国のZhang等の糖尿性心筋症に関する動物実験により、25〜50mGyのX線照射が糖尿病性心筋症を抑制することも既に示されています。また、2018年には別の研究グループでは、低線量のγ線照射が抗がん剤ドキソルビシンに誘導される心毒性を防護できることを明らかにしています。これら心筋障害改善の機序は異なるが、低線量の放射線照射には血管の傷や形態変化を改善する作用がある様です。
さらに、臨床でのがんの化学療法や高線量(>2Gy)放射線を用いる放射線療法での副作用として常に発症する心障害や腎障害を事前のラドンα線療法により軽減することが大いに期待されます。
3.化学・放射線療法と補完/補助療法としてのラドンα線療法
がん種の異なる(結腸、子宮、肺及び肝細胞がん)患者に一次治療法として化学療法又は放射線療法実施後に再発や転移がみられた患者に対して、補完療法としてα-ラジオレスピロ-Rn(ラドン濃度;1MBq/m3)によるラドンα線医療を試みました。この結果、症例の全てに対して化学療法や高線量の放射線療法による改善は劇的に高められました。さらに、重篤な肝細胞がん患者(ステージIVB)に対してもラドン濃度6MBq/m3迄を上げて治療効果を検討すると、1MBq/m3よりもより高い改善作用が得られることが明らかになっています。
4.補助療法としてのラドンα線療法
ヒト腺直腸がん細胞株HT-29を用いて、放射線治療及び化学療法での低線量放射線照射の細胞増殖抑制効果に対する作用を検討した基礎研究があります。
この報告では、放射線及び抗がん剤(5-FU)処理前にX線(250mGy)を照射すると、各々の治療効果は何れの場合も有意に増強されたことから、臨床でのがんの放射線療法及び化学療法とα線療法との組合せによる有用性が示唆、特に両治療法で抵抗性を示すがん種でより治療効果を得る為に有力な方法として多いに期待されています。
5.樹状細胞(DC)ワクチン療法でのα線によるDC細胞のin vivo曝露の効果
免疫療法の一つに樹状細胞(DC)を用いたがんワクチン療法がありますが、患者血液中単球をin vitroで調製した“DCワクチン”の遊走能が不十分であることから、臨床では十分な有効性が得られていないとのことです。
ごく最近、Wang 等はマウス骨髄由来DCワクチン調製過程でのX線照射が本ワクチンの抗腫瘍効果を高めるか否かを検討し、照射後にDCの遊走能が有意に増加することを明らかにしています。また、X線照射DCはT細胞増殖能及細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の細胞傷害作用も増強させたとのことです。さらに、腫瘍移植マウスモデルを用いた動物実験でも、X線照射DCワクチンの皮下投与により、担がんマウスの生存率が増加、又血清インターフェロンγ及びインターロイキン-12濃度の上昇と共に腫瘍組織へのCTLの遊走能、及びがん細胞のアポトーシスが増加することが示されています。
これらの結果は、ラドンα線療法による体内に取り込まれるα線によってもDC細胞の遊走能やCTLの細胞傷害作用が増強されることを期待されています。
以上、ラドンα線療法のがん患者に対する一次的療法のみなら、現在臨床で実施されています。
標準療法(化学療法、放射線療法、及び免疫療法)前後での補助・補完療法として用いことにより、臨床の現場でのより高い治療効果が得られるものと確信されます。さらに、化学・放射線標準治療法に伴う心・腎臓障害等の副作用低減も大いに期待されています。