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ノーベル賞研究とラドン療法の接点 — 制御性T細胞(Treg)と低線量放射線の新たな可能性 —

2025年のノーベル生理学・医学賞では、免疫寛容の鍵を握る「制御性T細胞(Treg)」の発見が大きく注目を集めました。Tregは免疫の暴走を抑える働きを持ち、自己免疫疾患や慢性炎症の制御において極めて重要な役割を果たすことが知られています。坂口志文教授らによるこの発見は、自己免疫疾患治療の概念を根底から変えるものであり、近年ではTregを人工的に誘導する再生医療的な試みも世界的に進められています。

一方で、私たち国際ラドンα線臨床研究会が着目しているのは、放射線医療分野からの新たなアプローチです。低線量放射線(とくにラドンα線を含む自然放射線環境)は、長年にわたり疼痛緩和や炎症抑制に効果を示してきました。その背景には、免疫系の微妙なバランス調整を担うTregの誘導・活性化が関与している可能性があると考えられています。

東京理科大学の小島周二氏らによる実験研究では、低線量ガンマ線の照射によってTregの増加が確認され、自己免疫疾患モデルマウスの症状が顕著に改善したと報告されています。これは、放射線が単に免疫を抑えるものではなく、免疫の恒常性を回復させる「制御因子」として作用する可能性を示唆するものであり、従来の放射線のイメージを大きく変える重要な知見です。

臨床の現場においても、ラドン療法が慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に有効であるという報告は少なくありません。これらの症例では、ラドン吸入や温泉療法によって疼痛や倦怠感が軽減し、血液マーカー上でも炎症の鎮静化が確認されることがあります。小島氏らの研究成果は、こうした臨床観察を科学的に裏づけるものであり、低線量放射線がTregを介して免疫恒常性を再構築する可能性を強く支持しています。

また近年、新型コロナウイルス感染症の罹患後に見られる筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)へのラドン療法の応用も検討が進められています。この疾患では、神経接合部の慢性炎症やミトコンドリア機能不全が長期の倦怠感・睡眠障害・認知機能低下を引き起こすとされており、ラドン療法による軽度の酸化ストレス刺激が抗炎症性サイトカインを誘導し、神経免疫系のバランスを整える可能性が指摘されています。Tregの直接的関与は今後の研究課題ですが、低線量放射線による免疫調整機構の延長線上にあると考えるのが自然です。

本研究会では、これらの知見を統合し、臨床医・研究者の協働によってラドンα線の免疫制御メカニズムを科学的に検証する枠組みを整えています。放射線生物学・免疫学・臨床医学の融合を通じて、Tregの誘導と機能維持におけるラドンの役割を明らかにし、その成果を今後の医療応用に結びつけていくことが私たちの使命です。

自然界の微量放射線が人の免疫を調律する——。その可能性を科学的に捉え直すことが、今まさに求められています。ラドン療法と制御性T細胞の研究は、免疫学の新たな地平を切り拓く重要なステップとなるでしょう。

出典:蒲田よしのクリニック公式ブログ(当研究会理事・院長 吉野 真人 先生)
文責:国際ラドンα線臨床研究会